日本のフラッシュメモリー大手Kioxiaでは、株価が大きく下落する一方、新工場への投資が続いている。7月17日には、Kioxia株が1日で16.1%下落し、世界の半導体株も売られた。米国とイランを巡る情勢の緊張や米国の金利見通しもリスク選好をさらに弱めた。[1] 7月28日にはKioxiaがさらに18.3%下落し、市場の懸念は、AIインフラへの巨額投資が十分なリターンを生むのか、中国のメモリー企業による増産や技術進歩が今後の競争を一段と激しくするのか、といった点へ移った。[2] AI半導体はすでに過熱しているのか、それとも産業としてはまだ拡大局面にあるのか。市場は改めてその見極めを迫られている。
株価調整がまず映すのは「期待」の変化であり、実需が同じ速さで弱くなったことを意味するとは限らない。 Kioxiaが7月31日に発表した決算では、6月末までの四半期営業利益は約1.27兆円で、7~9月期は約1.89兆円まで増える見通しが示された。同社はデータセンター需要が引き続き強いとの見方も明示している。[3] 少なくとも受注と業績見通しを見る限り、AIサーバーとデータセンターは引き続きフラッシュメモリーやSSD需要を押し上げている。
こうした足元の需要や業績見通しに加え、さらに注目したいのが、企業による実際の設備投資や生産能力増強の動きである。8月27日、Kioxiaは岩手県の北上工場で第3製造棟(K3棟)の建設準備を始めると発表した。2029年度中の稼働開始を目指し、先端3次元フラッシュメモリー「BiCS FLASH」の生産能力を拡大する計画である。同社は、Agentic AI、Physical AI、On-device AIなどの普及を中長期の需要拡大要因として挙げている。[4] 同日、KioxiaとSanDiskは、政府支援を前提に、2032年までに日本国内で累計約5兆円を投じ、四日市工場と北上工場の生産設備、インフラ、技術高度化を進める計画も発表した。[5]
「株価は下がるが、投資は続く」という状況は矛盾していない。 株式市場が見ているのは、成長期待がすでに株価へ織り込まれ過ぎていないか、巨額のAI投資が最終的に十分な利益を生むのかという点である。一方、半導体メーカーは数年先の需要を見越して生産能力を用意しなければならない。メモリー工場は、計画、建設、装置導入、量産までに長い時間を要するため、需要が完全に確定してから増産を始めたのでは間に合わない。大規模投資は中長期需要への自信を示す一方で、需要が想定を下回った場合には、余剰能力と減価償却負担が大きくなるリスクも抱える。
9月初めの時点でも、日本の製造業景況感には半導体需要の下支えが表れている。Reuters Tankanでは、大手製造業の景況感指数が約5年ぶりの高水準となり、電子分野の指数は8月の+24から+39へ上昇した。企業からはAI、データセンター、半導体関連需要の改善を指摘する声が多かった。[6] この拡大が続けば、恩恵はGPUやメモリーだけにとどまらない。先端パッケージ材料、電子化学品、セラミックス・絶縁材料、熱マネジメント材料、高信頼接合材料などにも、ウエハー、パッケージ、データセンター投資の拡大を通じて需要が波及する可能性がある。
したがって、日本の半導体産業がすでに「過熱」しているかどうかを、関連株が高値からどれだけ下落したかだけで判断するのは難しいと考えられる。データセンター建設、メモリーの実出荷、稼働率、設備投資がそろって伸びているかを引き続き見る必要がある。現状は、資本市場がAI関連のバリュエーションを冷静に見直し始める一方、実体産業ではなお拡大が続いている、と捉える方が近い。今回の拡大がどこまで続くかを決めるのは、AIというテーマが株価をどこまで押し上げるかではなく、巨額のコンピューティング投資が持続的な実需へ転化するかどうかである。 日本の半導体産業にとって次に問われるのは、「増産するかどうか」よりも、「今つくる生産能力を数年後も市場が継続的に吸収できるか」なのかもしれない。
出典
- [1] Reuters, “Japan's Nikkei slides into correction zone on tech selloff, Middle East conflict,” 2026-07-17。Kioxiaは同日約16.1%下落。世界的なハイテク株安、中東情勢、米金利見通しが市場心理を圧迫。
- [2] Reuters, “Asian chip stocks slide as China competition fears rattle AI trade,” 2026-07-28。Kioxiaは18.3%下落し、AIインフラ投資の資金調達・収益性、中国メモリー産業との競争が市場の焦点に。
- [3] Kioxia Holdings Corporation, “Consolidated Financial Results for the Three Months Ended June 30, 2026,” 2026-07-31。6月末までの四半期業績と、7~9月期もデータセンター需要が強いとの見通しを公表。
- [4] Kioxia Corporation「北上工場 新製造棟(K3棟)の建設について」、2026-08-27。K3棟は2029年度中の稼働開始を予定。
- [5] Kioxia Corporation / SanDisk Corporation「キオクシアとサンディスク、日本で約5兆円を投資しメモリ分野でのリーダーシップを強化」、2026-08-27。政府支援を前提に、2032年までに日本で累計約5兆円を投資する計画。
- [6] Reuters, “Japan manufacturers' mood hits near 5-year high on semiconductor demand,” 2026-09-08。Reuters Tankanで電子分野の景況感が改善し、AI、データセンター、半導体需要が主な支えとなったと報道。
