中国から日本向けの重要鉱物供給が急速に絞られたとき、日本の産業界が最初に直面するのは「世界にレアアース鉱山が残っているか」ではなく、「生産現場でそのまま使える材料を必要な時期に確保できるか」という問題である。2026年5月時点で、中国から日本へのジスプロシウム、テルビウム、酸化イットリウムなどの輸出は極めて低い水準まで落ち込み、ガリウムなどの重要鉱物にも明確な影響が及んでいる。[1] 半導体産業で特に注意すべきなのは、本当に代替が難しいのは資源そのものではなく、分離・精製・高純度化を経て、製造要件を満たした特定の材料である場合が多いという点だ。
日本が代替サプライチェーンの構築を何もしてこなかったわけではない。双日は豪Lynasと連携し、「豪州で採掘―マレーシアで分離精製―日本へ供給」というルートを構築しており、2025年10月からジスプロシウムとテルビウムの日本向け供給を始めた。最終的には国内需要の約30%をカバーする見込みとされる。2026年3月には、日本が輸入する中・重希土類の品目と数量を増やし、新規鉱山開発も検討する方針が示された。[2] これは中国以外の供給源が増えつつあることを示す一方、代替供給は新しい鉱山を見つけるだけでは完成しないことも意味している。
鉱石を産業で使える材料にするには、選鉱、分離、精製、高純度化を経たうえで、純度、不純物、粒径、ロット安定性といった顧客要求を満たす必要がある。Lynasも量産初期には、製品品質や仕様を日本顧客の要求に合わせていく過程を経験している。[2] そのため、「資源がある」ことと「安定供給できる」ことの間には、しばしば大きな時間差がある。とりわけ半導体製造材料では、サプライヤー変更に設備適合性の確認や品質認定が伴うため、他国に埋蔵量があるという理由だけで短期に置き換えることは難しい。
酸化イットリウムはその典型例である。経済産業省のサプライチェーン調査によれば、酸化イットリウムは半導体エッチング装置のチャンバー内壁や静電チャックなどの部材の保護膜に使われ、プラズマ環境下での汚染低減に寄与する。一方、その分離・精製は長年中国への集中度が高く、代替材料の開発も限定的とされる。[3] こうした材料はチップの総コストに占める直接比率こそ大きくないが、装置保守、パーティクル汚染、歩留まりに関わるため、リスクは「材料価格が何%上がるか」より、供給停止が生産安定性へ与える増幅効果として現れやすい。
つまり、代替供給源を新たに構築する際に見るべきなのは鉱石価格だけではなく、分離・精製、品質認定、サプライヤー切り替え、在庫積み増しなど一連の追加コストである。 新たな分離・精製能力には投資が必要で、新規サプライヤーは品質認定を通過しなければならない。供給途絶を避けるためには、安全在庫や複数調達先の確保も必要になる。日本、米国、欧州が同時に重要鉱物の調達多様化を進めれば、非中国系サプライチェーンへの建設需要も高まる。6月中旬にはG7が重要鉱物の備蓄、投資、供給網協調の強化を打ち出しており、[4] 政策の焦点が単なる「資源探し」から、産業で実際に使える一連の供給体制の構築へ移っていることがうかがえる。
したがって、日本の半導体産業にとって重要鉱物問題の核心は、単純に「中国から東南アジア、豪州、その他の国へ調達先を切り替える」ことではない。より現実的な課題は、中国以外で、資源開発から分離・精製、高純度材料、品質認定までをつなぐ連続したサプライチェーンを段階的に構築できるかどうかである。 短期的には多様化によって供給途絶リスクを下げられても、数量、コスト、品質安定性のすべてで既存の中国供給網をすぐに再現するのは難しい。日本の半導体産業が安定的かつ持続可能なレアアース・重要鉱物の供給体制を築くまでには、なお一定の時間を要するとみられる。
出典
- [1] Reuters, “China squeezes Japan over rare earths in repeat of 2010 showdown,” 2026-05-22。中国税関データを基に、ジスプロシウム、テルビウム、酸化イットリウム、ガリウムなどの対日供給が大幅に絞られたと報道。
- [2] 双日株式会社「『産業のビタミン』として製造業で幅広く使われるレアアース サプライチェーン多角化を推進し安定的な供給に貢献」、2026-03-18。
- [2] 双日株式会社「双日、レアアース鉱山の新規開発に向けた検討を開始」、2026-03-13。
- [3] 経済産業省「09. イットリウム(Y)サマリー」。酸化イットリウムの半導体エッチング装置向け用途、分離・精製の集中度、代替材料の状況を整理。
- [4] Reuters, “G7 sets up critical minerals alliance, platform to cut reliance on China,” 2026-06-17。G7による重要鉱物の備蓄、投資、供給網協調の強化を報道。
